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東京高等裁判所 昭和48年(行コ)6号 判決 1973年10月30日

千葉県松戸市東平賀一四四番地

控訴人

宇佐美博

千葉県松戸市小根本五八番地

被控訴人

松戸税務署長

永島與三郎

右指定代理人

角張昭治郎

田井幸男

佐伯秀之

白鳥庄一

右当事者間の昭和四八年(行コ)第六号所得税更正加算税賦課決定処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のように判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四五年一月三一日付で控訴人に対してした昭和四三年分所得税更正および過少申告加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠関係は、控訴人において、「控訴人は、本件譲渡所得の基本となつた不動産の譲渡代金六〇〇万円から、東京興業株式会社ほか二名の借入金利子三五〇万円余、カネツ貿易株式会社の取引担当者の不当干渉による損害一〇四万円余、これが事件による裁判諸経費一二万円、不動産売却経費二四万円等合計金四九一万円の出捐を余儀なくされ、その結果控訴人の手許には金一〇九万円しか残らなかつたもので、右の借入金利子は必要経費となつても所得とはならないものであるし、カネツ貿易株式会社の担当者の不当干渉による損害は人的災害に該当するから、このような出捐額を雑損控除の対象としないで譲渡所得とした本件課税処分は、国民に健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障した憲法二五条の規定に違反する処分である。」と述べ、被控訴人は、「控訴人がその主張のような出損をしたことは不知、本件課税処分が憲法二五条に違反するとの主張は争う。」と述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するので、原判決の理由をここに引用する。

控訴人は本件課税処分は憲法二五条に違反すると主張するけれども、その主張の出捐は控訴人が商品相場に手を出して蒙つた損失の填補のために直接又は間接に行われたものにすぎず、控訴人の意思に基かない災害又は盗難若しくは横領による損失とはいえないから、いまた所得税法七二条一項に規定する雑損控除の対象となるものとは認められず、(なお、控訴人主張の不動産売却経費は本件譲渡所得の所得金額を算出するにあたり既に譲渡費用として譲渡代金より控除されていることは弁論の全趣旨により明らかである。)また、憲法二五条は直接個々の国民に対し具体的な権利を与えたものでないことは最高裁判所判例の趣旨とするところであるから、本件課税処分により控訴人の生活が苦しくなったとしても、同条に反することにはならず、従って、本件課税処分は憲法二五条の規定に違反する処分とも認められないから、控訴人のこの点に関する主張は理由がない。

したがつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は財訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 井口源一郎 裁判官 舘忠彦)

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